“世界最強”の名を冠する蟻、「パラポネラ」。通称、「弾丸アリ」。
現地のほうでは刺された時に一日中痛みが続くことから「24時間アリ」なんて名も付けられています。
人気漫画のキーキャラクターにも深く関わりのあるこの蟻について、どこかで聞き覚えのある方もいらっしゃるんじゃないでしょうか?
とんでもない強さと恐ろしい生態を持つ「パラポネラ」。具体的にはどんな蟻なのでしょうか?
サソリよりも危険な蟻、パラポネラ
和名としては「サシハリアリ」と呼ばれるこの蟻は、ニカラグアからパラグアイまでの湿った低地多雨林に生息しています。
働きアリの大きさは、なんと18~30mm。つまり最大3cmもの巨躯にして、赤黒く頑強な体を持ちます。巣は樹木の根本に作られ、数匹から千匹程度の蟻達が暮らしているようです。
また、パラポネラはアリ科のなかでは珍しく、集団でなく単体で行動します。木陰の中にこっそりと息を潜め、自らの巣に近付くものがあると、けたたましく甲高い金切り声を上げつつ木の上から落下アタックを仕掛けてくる、ゲリラ部隊のような習性を持ちます。
まず蟻が叫ぶという時点で想像しづらいですが、3cmもの大きな蟻が木の上から唐突に降ってくる光景なんて、考えたくもありません。そして何かの拍子に刺されてしまえば、銃で撃たれたような衝撃と共に激しい熱を感じ、ありとあらゆる痛みの全てが全身に広がったあと、刺された一点に集中する、という恐ろしい事態に陥ります。
実際にパラポネラに刺された人の症状はさまざまで、そこまでひどいことにはならなかった方もいらっしゃるようですが、「Scmidt Sting Pain Index」と呼ばれる”虫に刺された時の痛みの指標”では、「どんなハチに刺された時よりも激しい痛みを齎す」とされているようです。しかも、それが24時間続く。まさに悪夢そのものですね。
毒針だけでなく顎の力も強く、噛みつかれるだけでも相当な痛みを伴うそうで、一説ではサソリよりも危険であると唱えられています。
世界最強ってほんと?
さて、それでは本当にパラポネラこそが世界最強の蟻なのでしょうか?
実は「あの軍隊アリもパラポネラを恐れて避ける」なんて話が信じられていたりもしたのですが、実際に現地で観察してみたところ、一匹のパラポネラに無数の軍隊アリが群がって攻撃を仕掛けたりしていたそうです。
ちょっと噂に尾びれが付きすぎてしまったんでしょうか。同じ現地に生息する「ノミバエ」はパラポネラの天敵ですし、真なる世界最強……では、ないのかもしれません。
しかし、危険度が異常に高い蟻であることは事実です。単独で狩りが可能なほど体が大きく、強く、またとんでもなく攻撃的であるため、不用意に近付けば当然恐ろしいことになってしまいます。
アマゾンの一部部族では、男性が青年から大人になるための証として、このパラポネラを利用しているそうです。パラポネラの神経毒を薄める特別な葉で編み込んだグローブを作り、その中に何百匹ものパラポネラを入れ、それを両手に嵌めるのだとか。もちろん、パラポネラ達は一斉に暴れだして、グローブに入れられている人間の手を思いっきり刺し始めます。
しかしどれだけの苦痛を感じようと、最低10分間は付けたままにしておかねばならず、ようやくグローブを外すことを許されたとしても、すっかり毒のまわった手は焼け付き、腕は完全に固まってしまいます。
おそろしく拷問じみた試練を乗り越えてこそ、部族の若者は一人前の大人として認められる、というのですが、そんな思いをするぐらいなら一生子供扱いのままで構わないとさえ思えてしまいますね。
しかし現地の若者達は、屈強な精神を鍛え、自らの忍耐強さと誇り高さを示すために、今もなおこの儀式に挑み続けているそうです。もう、挑もうとするその時点で十分大人顔負けの覚悟を手に入れられているような気もしますが……
若者達の前に立ちはだかる壁役を務める、パラポネラ。世界のどこかでは、今日この瞬間も、パラポネラの「弾丸」に撃たれた人間がいるのかもしれません。
まとめ
幸い、サシハリアリという和名が付いてはいますが、パラポネラは日本上陸を果たしていません。南米はニカラグア・パラグアイに多く生息しているので、意図的にそこまで向かったりしない限りは、事故や偶然とかで遭遇してしまうことはないでしょう。ですが、「弾丸アリ」や「世界最強」との呼び名にはどこか惹かれるものがありますね。
パラポネラの毒がペプチド性神経毒であるため、その毒を医療に応用できないかという研究も進められているそうですよ。
人類のための研究が推し進められるのはまったく構わないんですが、いつか『外来種』としてパラポネラがうっかり日本にやってくるようなことがないよう、どうか願いたいものです。