おそらく人生の中において「アリ」という虫を一度も見たことがない人は居ないでしょう。
砂場、路上、時に家の中にまで侵入してくる彼らは、我々のすぐ身の回りを探さずともそこらじゅうに居ます。アリが行列を作っているのを邪魔したり、逆に甘い砂糖菓子を置いて誘導してみたり、と幼い頃遊んだ経験がある方も少なくはないかもしれません。
ところで、日本に生息しているアリの種類は実に数多く、一般的によく見る小さなクロアリだけでなく、いろんなアリが存在しています。赤いアリ、やけに大きなアリ、噛まれると数日は痛みが残るアリ……比較的、虫が多く生息している傾向にある地方の地域に住んでいる方にとっては、実に身近な存在でしょう。畳の隙間からアリが這い出してきてついつい悲鳴を上げてしまったりしますよね。
ではそのなかで、今回は「日本最大の巨躯を誇るアリ」についてご紹介させていただきたいと思います。
日本最大のアリ、最も身近な 『クロオオアリ』
なんだかやたらと大きくて黒い身体をしたアリを見たことはありませんか？
それがクロオオアリです。大きさは約1センチほど、現在日本に生息しているアリの中では最大の大きさを誇るアリです。アリ、と聞いて思い出すイメージ像の大半は、このクロオオアリでしょう。
クロオオアリは開けた場所の乾いた地面に巣を作るので、畑や山道だけでなく、住宅地や公園などの都市部にも多く生息しています。都内の方が見かけるアリの大半はこのクロオオアリである、と言っても過言ではないでしょう。
生態としては一般的なものと変わらず、外に出る働きアリ達は春～秋にかけて活動します。基本的には小さな昆虫や幼虫などを巣に持ち帰って餌としますが、そういった持ち帰りやすい小物のない地域における研究では、なんと他種のアリを頻繁に狩って餌とすることもあるようです。
日本最大のアリであるクロオオアリだからこそ、他の小さなアリをも自らの糧とすることができるのでしょう。
また、日本産のアリの中ではかなり飼育が簡単な種でもあるようで、多くの研究や愛好家達による飼育が行われています。
クロオオアリは餌の種類にこだわらない、好き嫌いの少ないアリであることも関係しているのかと思われます。成虫の活動のために必要な糖分、女王アリが産卵するために必要なタンパク質、そのどちらもバランスよく与えることが重要になるので、今世紀に入ってからはメイプルシロップを薄めたものを餌として飼育するひとも増えてきています。
小型の蛾の幼虫だったり、その他まだ生きた獲物を与えると、クロオオアリが狩りをする姿を観察することもできるそうです。ちょっと見てみたい気持ちもありますね。
もう一種のダークホース 『ムネアカオオアリ』
さて、実は日本最大の大きさを誇るアリというのは、現在二種ほど確認されています。クロオオアリと同じぐらいの大きさを持つアリ、それが『ムネアカオオアリ』です。
名前の通り、胸の真ん中が赤くなっているのが特徴的なアリであり、彼らは土の中ではなく朽木や枯れ木の中に巣を作ります。たまに土の中へ巣を作ることもあるそうですが、だいたいはそうして他のアリとは少し違う場所に巣を作るようです。それゆえ木々の少ない都市部ではあまり見かけず、田舎のほうへ住んでいる方、山の深くへよく立ち入る方などであれば、たまに見かけたことがあるかもしれません。
外に出る時には、基本的に行列を作らず、単体で行動します。自然界ではあまり見られない赤色がとても目立つので、群れると逆に危険だからでしょうか。ですがやはり日本最大、1センチ前後の大きな身体があるため、たった一匹でも狩りができてしまいます。孤高のツワモノっぽくてなんだかかっこいいですね。
アブラムシとは協力関係にあり、アブラムシが作る甘露を餌としてもらうかわりに、アブラムシの天敵テントウムシから保護する、という相互補助を行っています。テントウムシvsムネアカオオアリの決戦、一体どんなものになるのでしょうか？
また、ムネアカオオアリも先述したクロオオアリと人気を二分するほど飼育のしやすい手頃なアリであり、小さなアリとは違って身体が大きいため、経過観察が行いやすいというメリットがあります。飼育セットはいろんなものが開発されていますが、一般的には石膏を流し込むだけで完成する石膏飼育ケースが扱いやすいです。初心者的にもそちらのほうが安全でしょう。
まとめ
“日本最大！”と聞くとなんだか危険なものであるイメージが先行しますが、クロオオアリもムネアカオオアリも、飼育がとても簡単な部類のアリです。肉食的な狩りはしますが、毒があったり、人間に対して襲いかかってきたりはしません……余計なちょっかいをかけなければ、の話ですが。
でも、大きく目立つ身体を持つこの二種を見かけたら、ちょっぴりラッキーかもしれませんね。相手はなにせ、日本最大のアリですから。
